蓋をするのに、カオニャオの籠はなぜ密閉しないのか
ラオスのもち米カオニャオは、水で炊かず、円錐形の籠で蒸し、編み籠に移して手で食べる。二つの籠が担う水分調整を、雨養稲作と指先に合わせたおかずから読み解く。
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蓋があるのに、密閉しない。ラオスのもち米カオニャオを入れる食卓用の籠には、細かな編み目がある。まだ温かい米から出る蒸気は、蓋の内側に閉じ込められず、編み目の隙間から少しずつ抜けていく。
その前にも、別の籠が働いている。水に浸した米を円錐形の蒸し籠へ入れ、下の鍋から上がる蒸気で火を通す。炊飯のように米と水を一緒にせず、加熱が終わるまで離しておくのだ。
蒸気を集める籠と、蒸気を逃がす籠。一見すると逆向きの仕事だが、二つを続けて見ると狙いは同じである。米の内側は柔らかくし、表面には余分な水を残さない。その食感が、指で丸めておかずを取るところまでつながっている。
円錐形は、米を返す形
伝統的な蒸し器は、口のくびれた金属鍋と円錐形の籠を組み合わせる。浸水させたもち米を籠へ入れ、湯に触れない高さへ置く。鍋の狭い口が籠の外側に沿い、下から来る蒸気を米へ集める。
円錐形が生きるのは、加熱の途中だ。Teshokuが記録した工程では、全体の七、八割ほどに火が通ったところで、粘り始めた米をひとかたまりにして返す。水中で米粒が動く炊飯と違い、蒸し籠の中では上下が自然に入れ替わらない。そこで籠を振り、蒸気に近かった側と遠かった側を反転させる。円錐は見栄えのためではなく、米の塊を受け止め、返しやすくする形でもある。
ただし、籠だけでは芯まで柔らかくならない。先に米へ十分な水を吸わせ、その後は外から蒸気で熱を渡す。浸水が足りなければ芯が残り、加熱を延ばしても表面ばかり柔らかくなりやすい。吸水と加熱を別々の段階へ分けることが、この道具を働かせる前提になる。
蓋付きの籠が、水滴をつくらない
蒸し上がった米は、すぐ食卓用の籠へ詰めない。平たい盆などへ広げ、返しながら余分な蒸気を抜く。少し落ち着いたところで、乾きすぎないようにまとめ、蓋付きの籠へ移す。北イリノイ大学の資料と家庭向け料理資料にも、この放湿から収納までの流れが記されている。
熱い米を密閉容器へ入れれば、蒸気は内側で水滴に戻り、米の表面を濡らす。一方、むき出しのままでは乾いてしまう。編み籠は完全に閉じることも、開け放つこともしない。余分な湿気を逃がしながら、米をひとまとまりに保つ中間の容器である。
メコン川委員会の資料は、米籠を保存上の工夫から発達した道具として扱う。ただ、現在の形がいつ、どこで完成したかは示していない。下メコン地域に古い稲作の痕跡があることと、いま使われる籠の誕生を一直線には結べない。この年代の空白を残しておくほうが、道具から確かに読める機能が際立つ。
もち米の帯は、国境をまたぐ
カオニャオはラオスだけに閉じた主食ではない。農業地理学者ルシアン・ハンクスの整理では、もち米を主食とする地域はタイ北部・東北部へ続き、中国南部、ミャンマー、ベトナム、カンボジアの隣接部にも広がる。14世紀半ば以降のラーンサーン王国を、もち米や籠の発祥とみなす根拠は確認できない。むしろ、もち米を育てて食べる範囲が、後世の国境より広いことを押さえる手がかりになる。
この分布は、雨量や土壌だけでは説明しきれない。学術論文は、ラオ系住民の食の好みと、それに応える品種選択を挙げる一方、生育期間の異なる品種を使い分ける農業上の事情にも目を向ける。環境がもち米を残したのか、好みが残したのかという二択ではない。
下メコン地域には紀元前4000年頃までさかのぼる稲作の痕跡があるが、それは現在のカオニャオの直接の起源を示すものではない。確かに接続できるのは、多様な環境の稲作が長く併存してきたことだ。2002年時点の資料でも、ラオスでは灌漑稲作の面積が小さく、雨養稲作への依存が大きかった。自然条件への対応と、もち米を求める食習慣が重なり、品種の選択を支えてきたと読むのが資料に即している。
指先の幅に、おかずも収まる
表面に余分な水がなく、内部に粘りを残したカオニャオは、小さく取って指でまとめられる。ジェオと呼ばれるたれや、ラープのように刻んだ料理へ押し当てても崩れにくい。Teshokuの観察では、米の塊が指とおかずの間に入り、汁が手へ直接付きにくくなる。
ここでは、おかずの形も無関係ではない。細かく刻む、つぶす、汁に濃度をつける。おかずがカオニャオで取りやすく整えられ、主食と副菜が同じ指先の動きに合流する。蒸し籠から始まった水分調整は、食卓の作法だけでなく、周囲の料理の質感にも届いている。
ただし、ラオス国内でも、常にもち米だけを食べ、同じ手の使い方をするとは限らない。地域や民族によって非もち米も選ばれ、麺やパンも食卓に並ぶ。資料が観察した範囲では左右どちらの手も使われているため、国全体を一つの作法で括ることはできない。
家で再現する、二段階の水分調整
3人分の基本形。円錐籠がなくても、吸水、蒸気による加熱、仕上げの放湿という順序は試せる。
材料と道具
- 長粒種のもち米 450グラム
- 浸水用の水 適量
- 蒸し器用の水 適量
- 円錐形の蒸し籠、または金属製蒸し器と清潔な蒸し布
1. もち米を洗い、たっぷりの水へ4時間以上、できれば一晩浸す。温水で時間を短縮する資料もあるが、芯まで均一に吸水させることを優先する。 2. 米をざるへ上げ、十分に水を切る。蒸し器の湯を沸かし、米が湯へ触れない位置に置く。金属製蒸し器なら、湿らせた布を敷き、米を厚く固めすぎずに広げる。 3. 蓋をして強めの蒸気で約20分蒸す。円錐籠では米をまとめて返し、金属製蒸し器では上下を大きく入れ替える。 4. さらに10分前後蒸し、中心に白く硬い芯がないか確かめる。資料の加熱時間には合計10〜15分から20〜40分まで幅がある。米の量、浸水、火力、道具が異なるため、時計より芯の状態を目安にする。 5. 清潔な盆へ広げ、しゃもじで返しながら1〜2分蒸気を抜く。温かいうちにまとめ、籠または布を敷いた容器へ入れる。
「glutinous rice」「sweet rice」と表示された長粒種が近い。日本のもち米でも蒸せるが、粒の短さと粘りが異なるため、同じ食感にはならない。ジャスミン米などの非もち米は、指でまとめる食べ方の代用にはなりにくい。
食べるときは、一口分を軽く丸め、たれや刻んだおかずを少量取る。強く握り続けると団子のように締まるので、籠から出すたびに形を整える程度でよい。
二つの籠は、片方が鍋の代わりで、もう片方が弁当箱の代わりなのではない。最初の籠は、吸水済みの米へ蒸気を集め、途中で上下を返せるようにする。次の籠は、蒸し上がった米を乾かしすぎず、表面の余分な湿気だけを逃がす。だから蓋は必要でも、密閉する必要はない。その間に保たれた粘りと乾いた表面が、カオニャオを指先とおかずのあいだに収まる主食にしている。
Sources
参考資料・出典
- Cambridge University Press / Journal of Southeast Asian Studies, “The Origin, Spread and Persistence of Glutinous Rice as a Staple Crop in Mainland Southeast Asia” https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-southeast-asian-studies/article/abs/origin-spread-and-persistence-of-glutinous-rice-as-a-staple-crop-in-mainland-southeast-asia/41DCA68B8F2F1BCB80DDF35401AC559F (東南アジア大陸部におけるもち米主食圏の分布、環境条件と食の選好を併せて考える必要性、生育期間の異なる品種、ラーンサーンとラオという地域概念の歴史的注意点。)
- Teshoku, “Eating Khao Niew with Hand” https://teshoku.com/en/articles/2189/ (円錐形の籠による蒸し方、途中で米を返す工程、蒸し上がり後の放湿と籠への収納、指で丸めておかずを取る方法、地域・民族による主食と手食の差。)
- Northern Illinois University, Center for Southeast Asian Studies, “Lao Recipes / Utensils” https://seasite.niu.edu/lao/otherTopics/foods/utensil.htm (もち米用の蒸し籠と鍋、加熱して冷ました米を収める食卓用籠、ラオスの食卓で使われる道具の区別。)
- Penn Hongthong(Comsewogue Public Library掲載), “Lao Recipes” https://www.cplib.org/wp-content/uploads/2020/11/Lao-Recipes.pdf (家庭向けレシピの浸水、米が湯へ触れない蒸し方、蒸し上がった米を冷まして籠へ移す要点。分量と工程は記事用に再構成した。)
- Mekong River Commission Secretariat(IW:LEARN Archive), “Rice in the Lower Mekong Basin” https://archive.iwlearn.org/mrcmekong.org/download/programmes/AIFP/Mekong_rice_paper.pdf (下メコン地域の稲作史、乾地から低地へ広がった農業技術、2002年時点のラオスの雨養・灌漑稲作、米籠と蒸し器の保存・調理上の位置づけ。)
- 画像:Thomas Wanhoff, “Wikimedia Commons” https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lao_sticky_rice.jpg (CC BY-SA 2.0)
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