インドネシア· ジャワ島を中心とするインドネシア· 東南アジアの食文化

テンペの大豆を白い板へ縫い合わせるものの正体

ばらばらの大豆を結ぶ白いものは、粘りではなくカビの菌糸。ジャワの記録、葉包みの技術、発酵に必要な空気から、テンペの形を読み直す。バナナの葉は菌そのものではなく、発酵の場を整える包みだった。

執筆日:編集日:文:ttr1563
皿の上に、揚げて表面に焼き色がついた薄いテンペが複数重ねて盛られている。
画像:ProjectManhattan / Wikimedia Commons(CC0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tempeh.jpg

焼いたテンペを割ると、表面は香ばしく、中には大豆の甘い匂いが残る。歯触りはほくほくとしているのに、豆は崩れ落ちない。白い膜が、一粒ずつを小さな板へ縫い合わせているからだ。

納豆もテンペも大豆を発酵させる。ただし、納豆の糸とテンペの白さは別の仕組みで生まれる。テンペを固めるのは粘りではない。カビが伸ばす細い菌糸である。

白い板の輪郭

典型的な工程では、大豆を水に浸し、皮を除き、煮る。水を切って表面を乾かしたら、種菌を混ぜ、バナナの葉などで包む。温かい場所で一〜二日ほど発酵させると、リゾープス属のカビが豆の隙間へ菌糸を伸ばす。やがて表面が白く覆われ、豆同士が結ばれる。

つまり、板状になる理由は型で押し固めるからだけではない。菌糸の網が内部から形を作る。糸を引く納豆と見た目が違うのも当然だ。こちらの主役は、豆の間を走る白い「根」のような構造である。ただし菌糸は根そのものではない。

食べるときは薄く切り、塩味をつけて揚げる方法がよく知られる。煮込みや炒め物にも入り、切り方や味つけは地域や家庭で変わる。発酵食品であっても保存性が無期限になるわけではない。FAOの資料は、生のテンペを傷みやすい食品として説明している。

少し鍋の中を覗くと、空気がいる

ここで妙に気になるのが、包んだままなのに空気が必要なことだ。リゾープスの成長には適度な通気が欠かせない。近代的な製造でプラスチック袋を使う場合、袋には小さな穴を開ける。密閉しすぎれば菌糸が十分に育たず、空気が多すぎれば胞子形成が進みやすい。包みは蓋というより、呼吸を調節する薄い部屋に近い。

伝統的な工程で使われるバナナの葉も、豆を一定の厚みにまとめながら発酵の場所を作る。葉が白い板へ変身させるわけではない。菌糸を育てる場を、手近な植物で整えているのである。葉を開く瞬間は、包装を外すというより、培養室の扉を開ける感じが少しある。

FAOが示す工程にも幅があり、浸漬時間、加熱、種菌、包み方は一つではない。今日の市販スターターを用いたテンペについても、インドネシア各地のリゾープスを調べる研究が続く。「テンペ菌」を一種類だけの固定した存在として扱うと、現場の多様さをこぼしてしまう。

大豆はジャワで別の姿になった

大豆そのものはジャワだけに閉じた作物ではない。アジア各地で栽培され、豆腐や醤油など多様な食品へ加工されてきた。一方、テンペの成立年代や最初の村を一点に定められる資料はない。

ShurtleffとAoyagiの資料集は、中央ジャワに関係する文献をたどり、1815年の『スラット・チェンティニ』を現時点で知られる早い記録として挙げる。物語の舞台は17世紀前半に設定されているが、舞台年代と文献成立年は同じではない。これだけで「1600年代に発明された」とは決められない。ヨーロッパ語資料では、1875年のジャワ語辞書に記載が見られるという。

同資料集には、大豆を指す語がより古いジャワの文献に現れるという整理もある。ただし、作物がいつ、どの経路で定着し、いつ白い菌糸の食品へ加工されたかは別の問いだ。大豆の移動とテンペの誕生を一本の年表で滑らかにつなぐには、まだ資料が足りない。

「tempe」と「tempeh」の小さな距離

もう一つ寄り道すると、インドネシア語の表記は一般に「tempe」である。英語圏で広まった「tempeh」は、語末を英語で誤読されにくくするために定着した表記だと資料集は説明する。日本語の「テンペ」は、現地の形に近い。

語の由来について同資料集は中央ジャワとの結びつきを示すが、確定した語源物語までは提示していない。料理名が中国語由来だと単純化する説明にも慎重である。大豆が広域を移動したことと、料理名まで同じ経路を通ったことは同義ではない。

20世紀後半には、穴を開けたプラスチック包装が提案され、ジャワにも普及したとされる。それでも葉包みは、古風な飾りとして片づけられない。身近な素材で豆をまとめ、空気を通し、菌糸が走れる厚みを作る。工程にかなった道具だった。

葉を開けば、白さの正体が見える

テンペの断面に見える白は、豆が溶けて固まった跡ではない。生きたカビが伸び、粒と粒の距離を埋めた痕跡だ。発酵後に加熱して食べるころには、その網目が独特の歯触りを支えている。

バナナの葉、大豆、種菌、温度、時間、そして少しの空気。どれか一つが料理の起源を説明するわけではない。それらを扱う人の手順が、ばらばらの豆を切り分けられる一枚へ変える。次に白いテンペを見たとき、表面の膜は包装の名残ではなく、豆の間を渡った菌糸の道筋に見えてくる。

#テンペ#発酵#大豆#バナナの葉

Sources

参考資料・出典

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