タイ· タイ中部、バンコク、ペッチャブリー· 東南アジアの食文化

カオチェーの香り水を澄ませる手仕事と食べ方

米を浮かべる水に、花や調理用ろうそくで香りを移す。タイのカオチェーは、その水を澄ませるために米を仕込み、おかずを別に食べる。モンの新年の供物から宮廷へ伝わった背景と、一膳を支える手仕事をたどる。

執筆日:文:ttr1563
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画像:Williamvonga / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:KhaoChae.JPG

米を浮かべる水に、花だけでなく、ろうそくで香りを移す。タイ財団によるカオチェーの調理解説には、タイの調理専用の香りろうそくが登場する。冷たい米料理の仕込みで、ここまで水の香りを整える。その手間が、一膳を見る入口になる。[タイ財団の解説](https://thailandfoundation.or.th/th/khao-chae-%e0%b8%82%e0%b9%89%e0%b8%b2%e0%b8%a7%e0%b9%81%e0%b8%8a%e0%b9%88-the-queen-of-thai-summer-treat/)

カオチェーは「水に浸した米」という意味の名を持つ。香り水に米を入れ、甘辛い魚や肉、海老ペーストを使う揚げ物などを添える暑季の料理だ。米もおかずもそろっているのに、おかずは水の中へ入れない。香りを付ける仕込みと、混ぜずに食べる作法は、どうつながっているのだろう。

新年の供物に、宮廷でおかずが増えた

この一膳の来歴は、モンの人々の新年行事へさかのぼる。タイ財団は、現在のミャンマー南部などからタイへ移住したモンの人々が、料理を伝えたと説明する。神々や僧侶、敬意を寄せる人に供える食べ物で、暑季に当たる4月の新年祝いと結び付いていた。移住の特定年は定められないが、米料理とともに、それを供える習慣も移ったという筋道だ。

19世紀、ラーマ4世期の宮廷への普及で名が挙がるのが、モンにルーツを持つ妃、チャオチョム・マンダー・ソンクリンである。同財団は、彼女を介して伝わった料理を、宮廷の料理人たちがおかずを増やして整えたとする。供物だった米料理は、宮廷で一膳を構成する品数と手仕事を増していった。[モンの習俗と宮廷への伝播](https://thailandfoundation.or.th/th/khao-chae-%e0%b8%82%e0%b9%89%e0%b8%b2%e0%b8%a7%e0%b9%81%e0%b8%8a%e0%b9%88-the-queen-of-thai-summer-treat/)

ただ、その道筋を一つの「発祥地」にまとめようとすると、資料の説明がずれる。タイ政府観光庁の資料は、ペッチャブリーの郷土料理としてカオチェーを紹介し、当地での創案を強調する。一方、タイ財団はモン由来を出発点とし、ペッチャブリーに滞在した王へ供されたことは可能性として記す。ミシュランも、ペッチャブリーでの成立説とモンの移住による伝播の説明を併記している。[政府観光庁資料、45〜46ページ](https://awmc.royalrain.go.th/awmc2024/pdf/thailand/Discover_Thainess.pdf)、[ミシュランの来歴紹介](https://guide.michelin.com/en/article/features/everything-you-need-to-know-about-khao-chae-thailand-s-summertime-go-to-dish-to-beat-the-heat)

引っかかるのは、料理が伝わった話と、その土地で形を整えた話が、どちらも「始まり」として語られる点だ。観光資料には、ペッチャブリーのプラナコーンキーリーに残るラーマ4世期の建築も紹介される。けれど、宮殿の存在だけでは、料理がいつ、どう伝授されたかまでは確定できない。モンの供物としての来歴と、当地や宮廷での発展は、分けて読んでおきたい。

米を仕込むのに、水の澄み方を見る

タイ財団の調理説明は、新米よりも古米を選ぶ。柔らかく崩れやすい米より、粒の形を保つ米が向くためだ。ゆでて蒸す過程で表面の余分な部分を取り除き、水を白く濁らせないようにする。ここでは、ふっくら炊き上がることだけが仕上がりの基準ではない。水に入れた後の姿までが、米の仕込みに含まれている。

その水には、ジャスミンなどの花や、冒頭の調理用ろうそくで香りを移す方法がある。米粒を整える手仕事と、水へ香りを付ける手仕事。二つを並べると、澄んだ水を保つことに手間をかける理由が見えてくる。[米と香り水の調理説明](https://thailandfoundation.or.th/th/khao-chae-%e0%b8%82%e0%b9%89%e0%b8%b2%e0%b8%a7%e0%b9%81%e0%b8%8a%e0%b9%88-the-queen-of-thai-summer-treat/)

ただし、花による香り付けと、氷による冷却は役割が異なる。現代の盛り付けには氷も使われ、ミシュランにはジャスミン以外の花を香らせる例も載る。「香りで涼む」と表現するときも、水温の低さと花の香りは、別の要素として捉えたい。[現代の氷と花の使い方](https://guide.michelin.com/en/article/features/everything-you-need-to-know-about-khao-chae-thailand-s-summertime-go-to-dish-to-beat-the-heat)

おかずの置き場所までが、一膳の仕上げ

ミシュランが勧める順序は、先におかずを一口、続いて米と水をすくうというもの。おかずを米の器へ落として混ぜることは勧めていない。[食べ方の案内](https://guide.michelin.com/en/article/features/everything-you-need-to-know-about-khao-chae-thailand-s-summertime-go-to-dish-to-beat-the-heat)

この案内を、タイ財団の米表面を整える工程と重ねて読むと、台所と食卓で同じ配慮が続いているように見える。仕込みでは米から出る濁りを抑え、食卓では強い味のおかずを水と分ける。宮廷で増えたとされるおかずも、米の器とは分けて供される。別々に口へ運ぶことで、香り水と甘辛い味の両方を楽しむ構成なのだ。

これは二つの資料から読み取れるつながりであって、食べ方の成立理由を直接証明するものではない。それでも、なぜ水を澄ませ、なぜ器を分けるのかを考える手がかりになる。

香り水と甘い大根で試す、2人分の再現レシピ

まずは米、香り水、大根のおかずで、別々に食べる構成を試す。タイ財団の調理説明を基にした家庭向けの簡略案で、宮廷式の一式ではない。分量と代替材料は初稿で設定された未試作の目安である。[工程の基にした調理説明](https://thailandfoundation.or.th/th/khao-chae-%e0%b8%82%e0%b9%89%e0%b8%b2%e0%b8%a7%e0%b9%81%e0%b8%8a%e0%b9%88-the-queen-of-thai-summer-treat/)

材料は軽い食事2人分。

  • 米と香り水:長粒米100g、ゆでる水1L、飲用の冷水600mL、食品用ローズウォーター小さじ1/4
  • おかず:塩漬け干し大根60g、パームシュガー10g、植物油小さじ1、水大さじ1
  • 添え物:キュウリ1/2本

1. 冷水に食品用ローズウォーターを混ぜ、冷蔵庫で冷やす。生花と調理用ろうそくの代替であり、同じ香りにはならない。製品に使用量の表示があれば優先する。 2. 米を洗い、沸騰した1Lの湯で、粒が崩れる前の少し芯が残る状態までゆでる。湯を切り、飲用水で優しくすすいで表面のぬめりを落とす。清潔な蒸し布に広げ、芯がなくなるまで蒸す。 3. 大根を刻む。塩が強ければ水にさらして絞り、油で炒める。砂糖と水大さじ1を加え、弱火で混ぜながら、水気がほぼなくなるまで加熱する。 4. 米を清潔な浅い容器に薄く広げ、速やかに冷まして冷蔵する。食べる直前に二つの器へ分け、冷たい香り水を注ぐ。大根と切ったキュウリは別皿に盛り、作った日に食べ切る。

塩漬け干し大根がなければ、甘さの控えめなたくあんで代用し、砂糖を半量から調整する。パームシュガーはきび砂糖でもよい。どちらも家庭向けの置き換えで、タイの保存大根や砂糖と同じ味にはならない。香料は必ず食品用を選び、芳香用オイルや観賞用の花は使わない。

大根を一口食べ、次に米と香り水をすくう。その間にキュウリを挟む。おかずの後に水の香りを感じられるか、米をすくっても水が澄んでいるかが、食べるときの着眼点になる。粒を崩さず表面を整え、おかずを水へ混ぜない。カオチェーの香りのある涼しさは、冷やした水に加え、その香りを保つ仕込みと食べ方に支えられている。

#東南アジアの食文化#タイ#カオチェー

Sources

参考資料・出典

  1. Thailand Foundation, “Khao Chae (ข้าวแช่): The Queen of Thai Summer Treat” https://thailandfoundation.or.th/th/khao-chae-%e0%b8%82%e0%b9%89%e0%b8%b2%e0%b8%a7%e0%b9%81%e0%b8%8a%e0%b9%88-the-queen-of-thai-summer-treat/ (古米と米表面の処理、香り水、保存大根の甘炒めの調理説明。家庭向け簡略レシピの工程の基礎。モンの移住、新年の供物、ソンクリンと宮廷でのおかずの増加。掲載分量と代替材料は初稿にある未試作の提案を維持。)
  2. MICHELIN Guide, “Everything You Need to Know About Khao Chae, Thailand’s Summertime Go-to Dish to Beat the Heat” https://guide.michelin.com/en/article/features/everything-you-need-to-know-about-khao-chae-thailand-s-summertime-go-to-dish-to-beat-the-heat (おかずを別に食べる順序、現代の氷の使用、花やおかずの違い、ペッチャブリーとモンの伝播に関する複数の説明。米の仕込みと食べ方の関係をタイ財団の解説と読み合わせる。)
  3. Tourism Authority of Thailand(タイ政府機関サイト掲載), “Discover Thainess” https://awmc.royalrain.go.th/awmc2024/pdf/thailand/Discover_Thainess.pdf (45〜46ページ。プラナコーンキーリーとラーマ4世期の地域史、ペッチャブリーの郷土料理としてのカオチェーの説明。他資料との起源説明の比較。)
  4. 画像:Williamvonga, “Wikimedia Commons” https://commons.wikimedia.org/wiki/File:KhaoChae.JPG (CC BY-SA 4.0)

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