チューニョを作る夜霜には、干すだけでは足りない理由がある
ジャガイモを保存するために、なぜ霜を待つのか。凍らせたイモを踏む工程と、高地で育つ苦い品種が手がかりになる。アンデスの加工技術を、帝国の備蓄や鉱山への供給、白と黒の選び方までたどる。
霜にさらしたジャガイモから、圧力をかけて水を出す。フランス国立自然史博物館が引く1846年の辞典には、そんな加工の説明が残っている。凍ったイモの話なのに、気になるのは、そのあとに水を絞るひと仕事だ。[博物館の資料](https://www.mnhn.fr/fr/pommes-de-terre-lyophilisees)
これは、ペルーやボリビアのアンデス高地で受け継がれてきた保存食、チューニョの工程である。ジャガイモを凍らせ、水分を抜いて乾かす。「天然のフリーズドライ」と呼ばれるが、その言葉だけでは、人が途中で何をしているのかが見えにくい。
保存するなら、ただ日に干すだけでは足りないのだろうか。工程を追うと、夜の冷え込みだけでなく、高地で育つイモの苦味も、この加工を読み解く手がかりになる。
夜は凍らせ、昼は水を抜く
カナダ農業・農産食品省の解説では、加工に使うのはアンデスの六月から七月の夜間の凍結だ。夜に凍ったイモは昼に解ける。その後、人が踏んで水分を押し出し、日差しで乾燥させる。保存食に仕上げるには、霜の降りる夜を待つだけでなく、人の手を加える必要がある。[カナダ農業・農産食品省の解説](https://publications.gc.ca/collections/collection_2024/aac-aafc/A47-8-2023-eng.pdf)
ここで辞典の「圧力をかけて水を出す」という記述が、具体的な動きになる。凍らせる、解かす、踏んで水を抜く、乾かす。博物館とカナダの資料を重ねて読むと、「天然」という呼び名の中にも、人が働く時間がしっかり入っている。
畑では避けたい霜を、収穫後には加工に使う。ただし、加工に適した場所には、夜の冷え込み以外にも条件がある。FAOの資料は、チューニョ作りに強い夜霜と、イモを広げられる開けた場所が必要だと説明している。寒さに加えて、加工のための場所も土地の条件になる。[FAOの収穫後加工資料](https://www.fao.org/4/s8620e/S8620E09.htm)
干す前に、苦いイモの事情がある
高地に適したジャガイモの中には、霜に耐える性質を持つ一方、苦味のあるものがある。その苦味に関係するのが、グリコアルカロイドという天然成分だ。カナダの解説によると、チューニョへの加工には、水分を減らすとともに、この成分の多くを除く働きがある。[カナダ農業・農産食品省の解説](https://publications.gc.ca/collections/collection_2024/aac-aafc/A47-8-2023-eng.pdf)
なぜ干すだけではないのか。この問いには、別の乾燥イモを並べると答えやすくなる。FAOが紹介するペルーのマンタロ渓谷の事例では、低い地域で作るパパ・セカは、イモをあらかじめ加熱してから乾燥させる。こちらは加熱のための燃料が必要になる。
しかも同資料は、パパ・セカの工程では、苦い品種の成分を十分に除けないと説明する。同じ乾燥イモでも、加工法をそのまま取り替えることはできない。[FAOの収穫後加工資料](https://www.fao.org/4/s8620e/S8620E09.htm)
二つの資料を合わせると、保存期間の話だけでは収まらないことが分かる。どんなイモが育つのか。夜にどこまで冷え、燃料をどれだけ使えるのか。チューニョは、そうした高地の条件と結び付いた加工として読める。凍らせれば苦味が消える、という一工程の話に縮めず、水を抜き、乾かす一連の仕事として捉えておきたい。
保存できるイモを、誰が配ったか
フランス国立自然史博物館は、この保存法を先コロンブス期のアンデス共同体が発達させた技術としている。参照資料から発明者や最初の村までは特定できない。「インカの食べ物」という呼び方だけでは、その前から続く技術の時間が抜け落ちてしまう。[博物館の資料](https://www.mnhn.fr/fr/pommes-de-terre-lyophilisees)
インカ帝国では、チューニョが徴収され、帝国の倉庫から道路建設などに従事する人々へ配られた。ここで注目したいのは、保存法だけでなく、集めて配る制度だ。長く蓄えられるイモは、労働の現場に食料を届ける仕組みに組み込まれていた。
スペインによる征服後には、現在のボリビアにあるポトシ銀山で働かされた人々の食料にもなったと、カナダの解説は記す。支配体制が変わっても、保存食としての性質が供給を支えた。[カナダ農業・農産食品省の歴史解説](https://publications.gc.ca/collections/collection_2024/aac-aafc/A47-8-2023-eng.pdf)
ただ、この記述から植民地化によって製法が変わったとまでは言えない。追えるのは、加工されたイモが誰に配られ、どこで食べられたかである。夜霜と日差しを利用する技術の先に、倉庫や鉱山での食料供給があった。
選び方と食べ方:色と戻し方を確認する
売り場で確かめたい言葉は「negro」と「blanco」。それぞれ黒と白を指し、白いものは「tunta(トゥンタ)」とも呼ばれる。博物館の説明では、黒いチューニョは皮付きで乾燥させる形で、味が強い。白いものは凍結と解凍に加え、流水での洗浄などを行い、皮を取り除く。色の名前は、イモにどんな作業を重ねたかを知る入口にもなる。[博物館の工程説明](https://www.mnhn.fr/fr/pommes-de-terre-lyophilisees)
家庭で使うなら、完成した食用の加工品を選ぶ。商品表示で戻し方と加熱方法を確認し、戻し時間が分からなければ販売者に尋ねたい。博物館が示す食べ方は、水に浸して洗い、スープや煮込みに加えて煮るというものだ。乾いたままつまむスナックとしてではなく、戻して加熱する食材として買うと、使う料理まで決めやすい。[博物館の食べ方の説明](https://www.mnhn.fr/fr/pommes-de-terre-lyophilisees)
ここまでの工程説明は、家庭で苦味を除くための製造手順ではない。原料や処理条件を確かめず、冷凍と天日干しだけで同じ加工ができるとは考えないでおこう。
チューニョが夜霜を待つ理由は、乾燥の前に凍結と水抜きの工程を置き、長く保存できるイモに変えるためだ。その一連の加工は、苦味のある高地品種の利用も支えている。ただ干すだけでは済まないのは、保存したいイモそのものに、高地で育つための性質があるからなのだ。
Sources
参考資料・出典
- 国際連合食糧農業機関(FAO), “Food loss prevention in perishable crops — 3. Roots and tuber crops” https://www.fao.org/4/s8620e/S8620E09.htm (マンタロ渓谷の標高と加工法の関係、パパ・セカの加熱と燃料、チューニョに必要な夜霜と開けた場所、苦い品種への加工の適否。)
- Agriculture and Agri-Food Canada, “Potato Gene Resources Newsletter 2022/2023 — Chuño, the oldest form of potato processing” https://publications.gc.ca/collections/collection_2024/aac-aafc/A47-8-2023-eng.pdf (2〜3ページの凍結・解凍・圧搾・乾燥の説明、耐霜性品種とグリコアルカロイド、インカの徴収・配給、征服後のポトシ銀山への食料供給。)
- Muséum national d’Histoire naturelle(フランス国立自然史博物館), “Pommes de terre lyophilisées” https://www.mnhn.fr/fr/pommes-de-terre-lyophilisees (先コロンブス期の保存技術、1846年の辞典に残る圧搾の記述、黒いチューニョと白いトゥンタの工程差、浸漬・洗浄後にスープや煮込みで加熱する食べ方。)
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