モロッコ· マグリブ、モロッコ各地、南部サハラ地域· 中東・北アフリカの食文化

クスクスの粒は、なぜ煮汁と別に三度蒸されるのか

煮汁の上で蒸し、広い皿へあけ、水を含ませ、またほぐす。モロッコのクスクスに残る往復作業を、造粒、二段鍋、金曜の共同食から読み解く。家庭向けの三度蒸しも紹介する。

執筆日:編集日:文:ttr1563
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大きな白い皿にクスクスの粒を盛り、上に野菜と肉を重ねたモロッコのクスクス。周囲に複数の小皿が並んでいる。
画像:Iasalarzai / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Couscous_Moroc.JPG

クスクスシエールという鍋は、上下に分かれている。下段では肉や野菜の煮汁が沸き、穴の開いた上段では穀物の粒が蒸される。同じ火を使うのに、粒は煮汁へ入れない。

しかも、上段へ置いたまま完成を待つわけでもない。ロイヤル・マンスールが公開する七種野菜のクスクスでは、粒を広い皿へあけ、水を含ませ、塊をほぐして蒸し器へ戻す。この往復を挟みながら三回蒸す。ひと鍋で煮れば省けそうな手間が、工程の中心に置かれている。

なぜ、そこまでして粒と煮汁を離すのか。UNESCOが記録する造粒の知識と具体的な調理工程を重ねると、クスクスが最初から均一な「小さなパスタ」ではないことが見えてくる。粉に近い穀物を粒へまとめ、その形を壊さず、中まで水分を届ける。二段鍋とほぐす手は、その状態を途中で何度も調整するためにある。

粉を粒にするところから料理は始まる

クスクスの粒は、畑でこの大きさに実るわけではない。粗くひいた穀物へ少量の水を加え、手で転がし、小さな粒へまとめる。UNESCOは、穀物の栽培、製粉、造粒、蒸し、調理、専用道具までを連続した知識として記録している。2020年に無形文化遺産の代表一覧へ登録されたのも、一つの固定レシピではない。アルジェリア、モーリタニア、モロッコ、チュニジアに共有される、生産と消費をめぐる知識、技能、実践である。

ここで水は、二つの仕事をする。造粒では粉を結んで粒を作り、蒸している途中には、その粒を崩さず内部へ水分を運ぶ。一度に多く注げば塊になりやすい。そこで少量の水を散らし、休ませ、粒同士を離してから蒸気へ戻す。加水と分離を交互に行う反復には、粒を作った技術を最後まで壊さず仕上げる役割がある。

資料を比べると、回数には線を引いておく必要がある。ロイヤル・マンスールの七種野菜版は三回蒸すが、UNESCOは全地域、全家庭に共通する回数を定めていない。三度蒸しは具体的な一例であり、唯一の正解ではない。共通しているのは、途中で粒の状態を見て、水分と塊を調整できる構造だ。

二段鍋は、具と粒を別々に待てる

下鍋では、にんじんやかぶのように時間のかかる野菜から煮る。ズッキーニやかぼちゃは後から加えられる。一方、上段の粒は押し固めずに置き、蒸気が表面まで抜けるようにする。野菜が崩れそうなら下鍋を調整し、粒が硬ければ上段だけを取り出して加水できる。火は一つでも、具と粒には別々の時計が与えられている。

広い皿も、盛り付け専用ではない。熱い粒を広げて蒸気を逃がし、大きな塊を見つけ、水を散らす作業台になる。手はタイマーの代わりではないが、硬さや固まり方を読む測定器になる。鍋、皿、手が一組になって初めて、反復蒸しは働く。

鍋の継ぎ目から蒸気が逃げると、上段まで熱が届きにくい。とはいえ、密閉して圧力をかける器具ではない。クスクスシエールに必要なのは、粒を液体から離しつつ、蒸気の通り道を保つ形である。

金曜の大皿へ、別々の時計が集まる

モロッコ政府観光局とロイヤル・マンスールは、クスクスを金曜日の食事として紹介する。後者が記すのは、モスクでの礼拝後に囲む昼食だ。何度も粒を出し入れするまとまった調理時間と、人が集まる時刻、大皿を分ける食べ方が同じ場面に重なる。

ただし、資料が示すのは宗教上の義務ではなく、礼拝後の社会的な食習慣である。UNESCOも、結婚式、祝い、家族の集まりなど、クスクスが登場する複数の機会を記録する。金曜は大切な出番の一つだが、唯一の出番ではない。

料理の範囲もモロッコ一国では閉じない。政府観光局はアマジグの伝統に由来するモロッコの主食と説明する一方、UNESCOはマグリブ四か国の共同遺産として登録した。モロッコの金曜の食卓を代表することと、技術が国境を越えて共有されていることは両立する。粒を何と合わせ、いつ囲むかに土地の輪郭が現れるのであって、起源を一国へ収める必要はない。

南部では、粒の穀物も一つではない

モロッコ南部のクスクス・ホウマシは、地域差が具より手前にあることを示す。Slow Foodによれば、軟質小麦、デュラム小麦、大麦、焙煎大麦、トウモロコシを合わせる五穀のクスクスだ。現在は女性たちの協同組合や経済利益団体が生産と販売を担い、家庭で伝えられてきた造粒や乾燥の技術が地域産品の流通にも接続している。

同資料は、現在のモロッコ南部にあたる地域のクスクスを評価した1850年の記述も紹介する。ただし、これはクスクスの発祥年でも、現在の五穀型が当時から変わらず続く証明でもない。少なくとも19世紀半ばには、南部のクスクスが記述の対象になっていた、と読める範囲にとどめたい。

五つの穀物では、吸う水の量やほどけ方も一様とは限らない。ホウマシは、クスクスをデュラム小麦だけで定義できないこと、そして反復蒸しが固定された手順ではなく、材料の状態に応じて手が調整する技術であることを際立たせる。

家で反復蒸しを再現する

以下は3〜4人分。市販の中粒クスクスで、加水、ほぐし、蒸しを繰り返す要点を試す。予備加熱済みの商品もあるため包装表示を優先し、水は一度に使い切らない。

**材料**

  • 中粒の乾燥クスクス 300g
  • オリーブ油 大さじ2
  • 水 180〜220ml(粒への加水用)
  • 塩 小さじ1/2(粒用)
  • 玉ねぎ 1個
  • にんじん 1本
  • かぶ 2個
  • ズッキーニ 1本
  • かぼちゃ 200g
  • ゆでひよこ豆 150g
  • カットトマト 200g
  • 水 1.2L(煮汁用)
  • ターメリック 小さじ1
  • 粉末しょうが 小さじ1
  • 黒こしょう 少々
  • 塩 小さじ1程度(煮汁用)
  • バター 15g(好みで)

**作り方**

1. 下鍋でオリーブ油大さじ1を温め、薄切りの玉ねぎ、トマト、香辛料を炒める。煮汁用の水を注ぎ、にんじん、かぶ、ひよこ豆を加えて弱火で煮る。ズッキーニとかぼちゃは後半に加える。 2. クスクスを広いボウルへ入れ、残りの油と粒用の塩をまぶす。水約70mlを散らし、指先で塊を崩して5分休ませる。 3. 粒を押し固めず蒸し器へ広げる。下鍋の煮汁を沸かし、粒の表面まで蒸気が抜け始めてから約15分蒸す。取り外しには鍋つかみを使う。 4. 粒をボウルへ戻す。熱いうちはフォークなどで大きな塊を崩し、触れられる温度になったら水50〜70mlを散らして粒を離す。5分休ませ、約15分蒸す。 5. もう一度ボウルへ戻し、残りの水を硬い部分へ少量ずつ含ませてほぐす。約15分蒸し、好みでバターを混ぜる。大皿へ盛って野菜をのせ、煮汁は少量だけかけ、残りを別添えにする。

専用鍋がなければ、深鍋と目の細かい金属製蒸し器を組み合わせる。粒が落ちる場合は、蒸気を妨げない清潔な蒸し布を敷く。器具は安定して重なり、圧力がこもらないものを選ぶ。大麦製品は地域差を知る入口になるが、混ぜるだけで南部の五穀型を再現したことにはならない。

三回という数字より、途中で粒を取り出せることが重要だ。煮汁へ沈めないから、粒は段階的に水を受け、塊はそのつどほどかれる。下鍋の具も、上段の粒も、それぞれの状態に合わせて待てる。そして最後に同じ大皿へ集まる。クスクスに残る遠回りは、造粒した一粒一粒を守りながら、共同の食卓へ仕上げるための調整時間なのである。

#クスクス#モロッコ料理#蒸し料理#アマジグの食文化

Sources

参考資料・出典

  1. UNESCO Intangible Cultural Heritage, “Knowledge, know-how and practices pertaining to the production and consumption of couscous” https://ich.unesco.org/en/RL/knowledge-know-how-and-practices-pertaining-to-the-production-and-consumption-of-couscous-01602?lang=en (2020年の四か国共同登録、穀物栽培から製粉・造粒・蒸しへ続く工程、専用道具、地域・季節・機会による付け合わせの差、観察と模倣による伝承、共食の社会的意味。)
  2. Moroccan National Tourist Office, “Food & Drinks” https://www.visitmorocco.com/en/travel-info/food-drinks (クスクスをアマジグの伝統として説明する公的な位置づけ、金曜日に食べる慣習、肉・野菜・魚・鶏・甘い型などの地域差、マルカと発酵乳の添え方。)
  3. Slow Food Foundation for Biodiversity, “Couscous Khoumassi” https://www.fondazioneslowfood.com/en/ark-of-taste-slow-food/couscous-khoumassi-2/ (モロッコ南部の五穀クスクスの材料構成、手作業による造粒、1850年の記述、金曜・祭事・ムーセムでの消費、協同組合などによる現代の生産。)
  4. Royal Mansour Marrakech, “The recipe of the seven-vegetable couscous by Chef Karim Benbaba” https://www.royalmansour.com/en/blog/the-recipe-of-the-seven-vegetable-couscous-by-chef-karim-benbaba/ (金曜礼拝後の昼食という説明、クスクスシエールの使用、三度の蒸しと各回の加水・ほぐし、七種野菜、煮汁、盛り付けを含む家庭向け再現節の基礎。)
  5. 画像:Iasalarzai, “Wikimedia Commons” https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Couscous_Moroc.JPG (CC BY-SA 4.0)

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